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知的財産関連ブログ / 【担当者必見】特許年金とは?金額や計算方法、管理方法まで徹底解説

【担当者必見】特許年金とは?金額や計算方法、管理方法まで徹底解説

自社で初めて特許を取得した、あるいはこれから取得する予定の方の中には、「特許年金」または「特許料」という言葉を初めて目にした方も多いのではないでしょうか。

特許権は一度取得すれば永遠に続くものではなく、その価値を維持するためには定期的なコストが発生します。

それがいわゆる「特許年金」(正式には「特許料」)と呼ばれるものです。

この維持コストを正しく理解し、計画的に管理しなければ、最悪の場合、せっかく取得した大切な権利を失ってしまうことになりかねません。

この記事では、特許年金の基本的な仕組みや料金、支払い方法、支払い漏れを防ぐための管理術まで解説します。

さらに、コストを削減するための減免制度や、経理処理といった実務的な疑問にもお答えします。

特許年金に関する不安を解消し、企業の重要な資産である特許権を確実に守り抜くための知識を身に付けるために、ぜひご一読ください。

特許年金とは

特許権を取得した後も、その権利を有効に保つためには、特許庁に対して毎年料金を支払い続ける必要があります。

この定期的に支払う料金が、一般に「特許年金」と呼ばれているものです。

不動産を所有していると固定資産税がかかるように、特許権という知的資産を維持するためのランニングコストと考えるとわかりやすいでしょう。

正式名称は「特許料」

普段「特許年金」という言葉をよく耳にしますが、これは通称です。

特許庁の法律上の正式名称は「特許料」といいます。

特許を取得するまでには、「出願料」や「審査請求料」といったさまざまな手数料が発生しますが、これらは権利化のための初期費用です。

それに対して、特許査定後に権利を維持するために支払うのが「特許料(特許年金)」です。

出願料や審査請求料とは性質が異なる点を理解しておきましょう。

制度の目的と重要性

特許年金制度には、二つの重要な目的があります。

一つは、特許制度を運営するための財源を確保することです。

もう一つは、社会にとって本当に価値のある特許だけが維持されるように促す役割です。

維持コストを課すことで、企業はもはや事業に活用していない特許権を放棄するようになり、その技術が公開されて社会全体の技術発展につながるという側面も持っています。

いつからいつまで支払う必要があるのか

特許年金の支払いは、特許査定の通知を受け取った後、第1年から第3年分をまとめて納付することから始まります。

その後、第4年目以降は、毎年、前年分までに納付しなければなりません。

この支払いは、特許権の存続期間が満了するまで続きます。

日本の特許権の存続期間は、原則として出願日から20年間です。

そのため、最長で20年間、支払いが発生する可能性があります。

【料金表あり】特許年金の金額と具体的な計算方法

特許年金の金額は一体いくらかかるのか、これは経営者や担当者にとって、もっとも気になる点の一つでしょう。

料金は毎年一定ではなく、権利を維持する年数が長くなるほど段階的に高くなるのが特徴です。

これは、長く維持される特許はそれだけ価値が高いという考え方に基づいています。

ここでは最新の料金表をもとに、具体的な金額と計算方法、そして20年間権利を維持した場合の総額をシミュレーションします。

特許年金の料金表(審査請求日に応じた年額)

特許年金の具体的な金額は、特許庁によって定められています。

以下に、2004年4月1日以降に審査請求された出願に適用される料金表を示します。

各年の区分金額(毎年)
第1年から第3年まで4,300円+(請求項の数 × 300円)
第4年から第6年まで10,300円+(請求項の数 × 800円)
第7年から第9年まで24,800円+(請求項の数 × 1,900円)
第10年から第25年まで59,400円+(請求項の数 × 4,600円)

出典:産業財産権関係料金一覧(特許庁)

特許年金の計算方法(基本料金+請求項数)

上の料金表を見るとわかるように、特許年金の年額は「基本料金」と「請求項の数に応じた加算料金」の合計で決まります。

請求項とは、特許出願の書類の一部である「特許請求の範囲」に記載されるもので、権利として保護を求める発明の範囲を具体的に定義する部分です。

この請求項の数が多ければ多いほど、権利範囲が広くなる可能性があるため、維持費用も高くなる仕組みになっています。

自社の特許の請求項の数を確認することで、年金額を算出することが可能です。

シミュレーション|請求項の数に応じた計算例

具体的な計算方法を理解するために、例を挙げてみましょう。

例えば、請求項の数が「5」である特許について、第7年目の特許年金を計算してみます。

料金表によると、第7年から第9年までの基本料金は24,800円、請求項1つあたりの加算料金は1,900円です。

したがって、計算式は 24,800円 +(1,900円 × 5)= 34,300円 となり、この年の特許料は34,300円となります。

モデルケースで見る!20年間権利を維持した場合のトータル費用

長期的な事業計画や予算策定のためには、トータルでどのくらいのコストがかかるのかを把握することが極めて重要です。

ここでは、請求項の数が「5」の場合をモデルケースとして、特許権を出願日から20年間維持した場合の費用の推移と累計総額をシミュレーションしました。

年数年額累計総額
第1年〜第3年8,800円 × 3年 = 26,400円(設定登録時に一括納付)26,400円
第4年〜第6年14,300円 × 3年 = 42,900円69,300円
第7年〜第9年34,300円 × 3年 = 102,900円172,200円
第10年〜第20年82,300円 × 3年 = 906,400円1,078,600円

このように、請求項の数が「5」の場合、20年間権利を維持すると、総額は100万円を超える大きな投資となります。

この事実が、どの特許をいつまで維持するかという戦略的な判断の重要性を示唆しています。

特許年金の納付方法と期限管理のポイント

特許年金の支払いを一度でも忘れてしまうと、権利失効という取り返しのつかない事態につながりかねません。

以下では実務担当者が安心して業務を遂行できるように、具体的な支払い方法と、「うっかり忘れ」を防ぐための期限管理術について詳しく解説します。

主な納付方法

特許庁では複数の納付方法を用意しており、自社の状況に合わせて最適な手段を選べます。 それぞれの方法の特徴を比較検討してみましょう。

支払い方法 概要 メリット デメリット おすすめの対象
特許印紙 納付書に印紙を貼付して窓口か郵送で提出 事前手続き不要でシンプル。 印紙の購入・管理の手間がかかる。郵送の場合、不着リスクがある。 特許件数が非常に少なく、単発で支払う場合
予納 特許庁に予納台帳を開設し、そこから引き落とす 都度支払う手間が省ける。オンライン手続きが可能。 台帳開設の事前手続きが必要。残高管理が必須。 定期的に複数の手続きを行う企業
現金納付 金融機関の窓口で専用の振込用紙を使い納付 誰でも利用可能。 金融機関の窓口に行く手間がかかる。オンライン非対応。 オンライン手続に不慣れな場合
電子現金納付(Pay-easy) ネットバンキングや対応ATMから納付 金融機関の窓口に行く必要がなく、24時間対応。 Pay-easy対応の金融機関の口座が必要。 迅速にオンラインで支払いを完結させたい場合
口座振替 事前に登録した銀行口座から自動で引き落とされる 支払い忘れのリスクがもっとも低い。 事前申請に時間がかかる。残高不足に注意が必要。 支払い漏れのリスクを確実に避けたい企業
クレジットカード オンラインでクレジットカード決済を行う 手軽で迅速。ポイントが貯まる場合も。 3Dセキュア登録済みのカードが必要。利用限度額に注意。 スタートアップや中小企業

出典:特許(登録)料の納付方法について(特許庁)

期限管理のポイント

特許年金は、原則として第1年〜第3年分は、特許査定または審決の謄本が送達された日から 30日以内にまとめて納付する必要があります。第4年以降は、原則として前年までに納付します(特許法第108条)。

この期限を確実に守るために、担当者個人の記憶に頼るのではなく、仕組みで管理することが求められます。

具体的には、GoogleカレンダーやOutlookなどの共有カレンダーに、複数年にわたるリマインダーを設定する方法が基本です。

さらに、Excelやスプレッドシートで特許管理台帳を作成し、「特許番号」「発明の名称」「登録日」「次期納付期限」「担当者」といった項目を一覧化し、チームで共有すると、担当者が交代する際もスムーズな引き継ぎが可能です。

また、特許庁が提供する無料の「特許料支払期限通知サービス」に登録しておけば、メールで期限を知らせてくれるため、二重のチェック体制を構築できます。

複数年分の一括納付(前納)とその注意点

特許年金は、複数年分をまとめて前払い(前納)することも可能です。

これにより、毎年の支払い手続きの手間を省けます。

しかし、注意点として、一度納付した特許料は、途中で権利を放棄することになっても返還されません。

そのため、長期的に維持することが確定している重要な特許に限定して利用するなど、慎重な判断が求められます。

なお、以上で説明した特許年金支払いの流れは、特許庁のWebサイトで詳しく解説されています。

参考:権利維持のための特許(登録)料の納付の流れについて(特許庁)

特許年金支払いの流れ

  1. 特許料納付書の提出
  2. 権利維持の登録
  3. 手続却下処分
  4. 権利消滅または期間満了

特許年金を支払い忘れたときの対処法

注意をしていても、人的ミスで支払いを忘れてしまう可能性はゼロではありません。

その場合、どうなってしまうのでしょうか。

もっとも恐れるこの事態について、ペナルティの内容と救済措置を正確に理解しておくことが、いざというときの冷静な対応につながります。

【6カ月以内なら間に合う】割増特許料での追納制度

納付期限を過ぎてしまっても、すぐに権利が失効するわけではありません。

法律では、本来の納付期限から6カ月間の「追納期間」が設けられています。

この期間内に、本来納付すべき特許料と同額の「割増特許料」を上乗せして支払うことで、権利を維持できます。

つまり、料金は2倍になりますが、権利を失うという最悪の事態は回避できるのです。

この制度があることを知っておくだけでも、大きな安心材料となるでしょう。

出典:権利維持のための特許(登録)料の納付の流れについて(特許庁)

追納期間も過ぎてしまった場合の「権利回復制度」とは

もし6カ月の追納期間すら過ぎてしまった場合、原則として特許権は消滅してしまいます。

しかし、法律には最後の救済措置として「権利回復制度」が用意されています。

これは、期限を徒過したことが「故意でない」場合に限り、権利の回復が認められる制度です。

例えば、大規模な自然災害や、予期せぬシステムの長期ダウンといったケースが想定されます。

とはいえ、あくまで最終手段と捉え、日頃の期限管理を徹底することが何よりも重要です。

出典:「故意によるものでないこと」による期間徒過後の救済について(特許庁)

特許年金の効率的な管理方法

特許件数が増加すると、その管理は担当者にとって大きな負担となります。

Excelでの管理に限界を感じ始めたら、より効率的な管理方法への移行を検討する時期かもしれません。

管理方法は大きく「自社での内製化」と「専門家への外部委託」に分けられます。

自社で管理する

特許件数が比較的少ないうちは、前述した共有カレンダーやスプレッドシートを活用して、自社で管理するのがもっともコストを抑えられます。

担当者を明確に定め、ダブルチェックの体制を構築することがミスを防ぐ鍵です。

近年では、比較的安価なクラウドベースの知財管理ツールも登場しており、中小企業でも導入しやすくなっています。

これらのツールは、期限管理の自動化やアラート機能などを備えており、業務負担を大幅に軽減してくれます。

専門家に外部委託する

自社での管理にリソースを割けない、あるいは海外特許も多数保有していて管理が複雑化している場合には、専門家への外部委託が有効です。

特許事務所や特許年金管理を専門に行うサービス会社に依頼することで、期限管理から納付手続きまでを一任できます。

特許維持コストを最適化するポイント

特許年金は、長期的に見ると大きなコストになります。

このコストをいかにコントロールするかは、企業の知財戦略、ひいては経営戦略そのものに関わる重要な課題です。

ここでは、直接的な費用を削減する減免制度の活用と、より戦略的な権利維持の考え方について解説します。

ポイント1:減免制度を活用する

国は、経済的な基盤が比較的弱い中小企業やスタートアップの知財活動を支援するため、特許料の減免・猶予制度を設けています。

対象となる企業や個人は、申請することで特許料が1/2や1/3に軽減されます。

主な対象者措置内容
中小企業(会社、個人事業主、組合・NPO法人)、大学等第1年分から第10年分を1/2に軽減
個人(市町村民税非課税者等)第1年分から第3年分を免除または1/2に軽減
第4年分から第10年分を1/2に軽減
中小スタートアップ企業、小規模企業第1年分から第10年分を1/3に軽減

出典:特許料等の減免制度(特許庁)

注意点は、この減免申請は特許料の納付と同時に行わなければならず、後から遡って申請することはできない点です。

自社が対象となるかを確認し、申請の機会を逃さないようにしましょう。

ポイント2:事業貢献度からポートフォリオ戦略を立てる

コスト削減は、単に支払う金額を減らすことだけではありません。

「そもそも、この特許を維持し続ける必要があるのか?」と定期的に問い直すことが、もっとも効果的なコスト管理につながります。

特許年金に関するQ&A

Q1. 経理処理での勘定科目はどうすれば良い?

一般的には、特許料は公的な手数料であるため、「租税公課」として処理します。

ただし、企業の会計方針によっては、発明活動に関連する費用として「研究開発費」や、手続きに関する手数料として「支払手数料」などの科目で処理されることもあります。

Q2. 自社や他社の特許が有効か確認する方法は?

特許庁が提供する無料のデータベース「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」で誰でも簡単に行えます。

J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で特許番号を検索し、「経過情報」タブを参照してください。

Q3.煩雑な管理業務、どうすれば効率化できる?

特許年金管理の専門サービスやクラウドシステムの活用も検討しましょう。

まとめ:適切な特許年金管理で、大切な知的財産を確実に守ろう

特許年金は、単に支払うべき費用ではなく、企業の競争力の源泉である知的財産という重要な資産を守り、育てるための戦略的な「投資」です。

その仕組みを正しく理解し、支払い漏れのリスクを徹底的に排除するとともに、減免制度や外部サービスを賢く活用することで、計画的な知財管理が可能になります。

そして、定期的に自社の特許ポートフォリオを見直し、事業戦略と照らし合わせながら維持・放棄の判断を下すことこそが、真のコスト管理と言えるでしょう。

本記事が、皆様の特許管理の体制強化や、企業の持続的な成長の一助となれば幸いです。

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